読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

あのKTOKの数学blog

コンビニエンス Math Blog

Schwartz超函数と佐藤超函数 ~解の正則性の視点から~

 超函数の理論といえば、Schwartz超函数と佐藤超函数があります。どちらもDirac \delta 函数の理論や偏微分作用素を調べるために創られました。今回は解の正則性の視点からそれぞれの議論や性質の特徴について述べていきます。

前提知識:なし

 注意

 今回はSchwartz超函数、佐藤超函数の定義を述べずにどういう性質を持っているかを比較しながらお話を進めていこうと思います。(パラコンパクト)多様体という言葉が出ますが、わからなければ \mathbb{R}/ \mathbb{Z} \mathbb{R}^nを想定していただければと思います。

 

§1 Schwartz超函数

 Schwartz超函数では函数解析で出てくる議論や、偏微分方程式で出てくる不等式評価の議論が主です。Schwartz超函数は台がコンパクトな C^{\infty}函数の汎函数として定義されました。このアイデアは凸最小化法に出てくる弱微分というアイデアをもとに創られました。現在では弱微分のアイデアはSchwartz超函数だけでなく、Sobolev空間などで用いられています。

 Sobolev空間についてです。ここでは閉区間 [a,b]で考えてみましょう。 C^k級は C^0で用いられた一様ノルムによって有界函数であったことを思い出しましょう。つまり C^kノルムを f \in C^k [a,b]に対して、

 \displaystyle || f ||_{C^k} := \sum_{i=1}^k \sup_{x \in [ a , b ]}  | \frac{d^i}{dx^i} f (x) |

によって定義します。Sobolev空間 H^k C^0ノルムの代わりに L^2ノルムを用いて定義されたものです。つまり H^kノルムを f \in C^k [a , b ]に対して、

 \displaystyle || f ||_{H^k}^2 := \sum_{i=1}^k  \int_a^b  | \frac{d^i}{dx^i} f (x) |^2  dx 

によって定義します。Sobolev空間 f \in H^k [a , b ]はこのノルムに関して C^{\infty}函数を完備化したものです。わからなければ、 f \in C^k [a , b ]なら f \in H^k [a , b ]に属すると思えばよいでしょう。

非負整数 kを実数に拡張することにより、実数 s \in \mathbb{R}に対してもSobolev空間 H^sを定義することができます。

 ではSchwartz超函数とSobolev空間の関係はどのようになっているのでしょうか。実は次のような関係式があります。

定理1

 Mをコンパクト C^{\infty}多様体とする。次が成立する。

 \displaystyle \mathfrak{D}' (M) = \bigcup_{s \in \mathbb{R}} H^s (M)

 \displaystyle C^{\infty} (M) = \bigcap_{s \in \mathbb{R}} H^s (M)

 それでは、今回のテーマである解の正則性という視点から応用を見てみましょう。Sobolev空間における楕円型線形偏微分作用素の性質について述べます。楕円型線形偏微分作用素というのはトーラス \mathbb{R} / \mathbb{Z}上の \frac{d}{dx} \mathbb{R}^n上のラプラシアン \Delta = -\sum_{i=1}^n \frac{\partial^2}{\partial x_i^2} 等が当てはまります。楕円型線形偏微分作用素はHodge理論に出てくる調和形式の研究に使われていたり、Atiyah-Singerの指数定理に用いられていたりします。楕円型線形偏微分作用素の性質として次が成り立ちます。

定理2(Sobolev空間の正則性)

 Mをコンパクト C^{\infty}多様体とする。 P k 階の係数が C^{\infty}楕円型線形偏微分作用素とする。 f \in H^s (M) u \in H^{s'}(M)  Pu=f を満たしているとする。このとき、 u \in H^{s+m}(M)

この定理は楕円型評価と呼ばれる不等式評価と軟化子を用いると示せます。楕円型評価を得るための一つの方法として、L. Hörmanderたちが構築した擬微分作用素論があります。そこでも、解析の不等式評価を息を吸うように使い倒します。さて、Sobolev空間の正則性から次が従います。

定理3(Schwartz超函数の正則性)

 M C^{\infty}多様体とする。 P k 階の係数が C^{\infty}楕円型線形偏微分作用素とする。 f \in C^{\infty}(M) u \in \mathfrak{D}' (M)  Pu =f を満たすとする。このとき、 u \in C^{\infty}(M)

 ほかにも特徴的な定理としてSchwartzの核定理や完備性や極限操作に強いという性質があります。極限操作と相性が良いことは第1回でみることができるのでリンクを張っておきます。

ano-ktok.hatenablog.com

 

では、佐藤超函数ではどういう性質があるのかを次の節で見てみたいと思います。

 

§2 佐藤超函数

 佐藤超函数は層による議論が主になってきます。層というのは函数の空間みたいなもので、函数どうしを張り合わせて、大域的に函数を定義することができるものです。例えば、 \bigcup_{a \in A} U_a =\mathbb{R}^nを満たす \mathbb{R}^n開被覆 \{ U_a \}_{a \in A }としてします。各 U_a  C^{\infty}函数 f_aが定まって、 f_a | U_a \cap U_b = f_b | U_a \cap U_bが成り立つとします。このとき、 x \in U_a に対し f (x) := f_a (x) と定めると、 f  \mathbb{R}^n全体で定める C^{\infty}函数になります。なので、 C^{\infty}は層です。逆に層でない例は可積分空間 L^1というものがあります。 1という函数有界閉集合上で可積分ですが全体では可積分ではありません。層になるほかの例として、Schwartz超函数の層 \mathfrak{D}'や佐藤超函数の層 \mathfrak{B}があります。

 佐藤超函数にあって、Schwartz超函数にはない性質を挙げます。佐藤超函数には脆弱性と呼ばれる性質があります。つまり、開集合 U VU \supset Vを満たしているとします。このとき、任意の f \in \mathfrak{B} (V)に対して、 \tilde{f}|V =fとなる \tilde{f} \in \mathfrak{B} (U)が存在します。この性質はSchwartz超函数の層には無い、佐藤超函数の特徴的な性質です。

 このことから次がわかります。 e^{1/x}という函数を考えてみましょう。 e^{1/x}はSchwartz超函数 \mathfrak{D}'(\mathbb{R})には属しません。原点で発散の度合いが大きいためです。しかし、 e^{1/x}は佐藤超函数 \mathfrak{B}(\mathbb{R})に属します。この函数常微分方程式 x^2 f' +f =0の解になっています。この上微分方程式は最大の階で x^2が係っていて原点で 0になります。なので学部生で習う C^{\infty}版の常微分方程式の基本定理は使うことができません。しかし、佐藤超函数は次の性質を持っています。

定理4(佐藤の基本定理)

区間 Iとする。常微分作用素 P= \sum_{i=1}^k a_i (x) \frac{d^i}{dx^i}し、各係数 a_i (x)は解析関数し、 a_k \not \equiv 0とする。このとき、

 \displaystyle \dim \{ f \in \mathfrak{B} (I) | P f =0 \} = k + \sum_{x \in I } \text{ord}_x a_k

 となる。ただし、 \text{ord}_x a_k  a_k xにおける 0点の位数とする。

このように、常微分方程式の解を精密にとらえることができます。また、この定理は任意の x \in Iにおいて a_k (x)\not = 0という性質を持つ場合は常微分方程式の基本定理になります。この場合、常微分作用素 P楕円型になります。つまり、すべての解が実解析になります。

 今度は高次元の場合の性質を挙げます。佐藤超函数にも楕円型偏微分作用素の正則性を持っています。

定理5(佐藤超函数の正則性)

 Mを実解析的多様体とする。 P k 階の係数が実解析的な楕円型線形偏微分作用素とする。 f  M上実解析的な函数とし、 u \in \mathfrak{B} (M) Pu =f を満たすとする。このとき、 u実解析的な函数である

 

参考文献(abc順)

[1] Peter B. Gilkey, "Invariance theory, the heat equation, and the Atiyah-Singer index theorem," Publish or Perish Inc., USA, 1984年.

http://pages.uoregon.edu/gilkey/dirPDF/InvarianceTheory1Ed.pdf

[2] 垣田高夫, シュワルツ超関数入門, 日本評論社, 1985 年.

[3] 柏原 正樹, 河合 隆裕, 木村 達雄, ”代数解析学の基礎,” 紀伊国屋書店, 1980年.

[4] 小松 彦三郎, 数理解析研究所講究禄 188巻 "超函数の理論," 1973年,1973年.

Kyoto University Research Information Repository: 佐藤超函数論入門 (佐藤超函数論入門)

[5] 今野 宏, 大学数学の世界① "微分幾何学," 東京大学出版会, 2013年.

[6] 森本 光生, ”復刊 佐藤超函数入門,” 共立出版, 2000年.

 

 次回は4/2-4/9を目途に更新したいと思います。