Schwartz超函数と佐藤超函数 ~解の正則性の視点から~
超函数の理論といえば、Schwartz超函数と佐藤超函数があります。どちらもDiracの函数の理論や偏微分作用素を調べるために創られました。今回は解の正則性の視点からそれぞれの議論や性質の特徴について述べていきます。
前提知識:なし
注意
今回はSchwartz超函数、佐藤超函数の定義を述べずにどういう性質を持っているかを比較しながらお話を進めていこうと思います。(パラコンパクト)多様体という言葉が出ますが、わからなければやを想定していただければと思います。
§1 Schwartz超函数
Schwartz超函数では函数解析で出てくる議論や、偏微分方程式で出てくる不等式評価の議論が主です。Schwartz超函数は台がコンパクトな函数の汎函数として定義されました。このアイデアは凸最小化法に出てくる弱微分というアイデアをもとに創られました。現在では弱微分のアイデアはSchwartz超函数だけでなく、Sobolev空間などで用いられています。
Sobolev空間についてです。ここでは閉区間]で考えてみましょう。級はで用いられた一様ノルムによって有界な函数であったことを思い出しましょう。つまりノルムを]に対して、
によって定義します。Sobolev空間はノルムの代わりにノルムを用いて定義されたものです。つまりノルムを]に対して、
によって定義します。Sobolev空間]はこのノルムに関して級函数を完備化したものです。わからなければ、]なら]に属すると思えばよいでしょう。
非負整数を実数に拡張することにより、実数に対してもSobolev空間を定義することができます。
ではSchwartz超函数とSobolev空間の関係はどのようになっているのでしょうか。実は次のような関係式があります。
定理1
をコンパクト級多様体とする。次が成立する。
それでは、今回のテーマである解の正則性という視点から応用を見てみましょう。Sobolev空間における楕円型線形偏微分作用素の性質について述べます。楕円型線形偏微分作用素というのはトーラス上のや上のラプラシアン等が当てはまります。楕円型線形偏微分作用素はHodge理論に出てくる調和形式の研究に使われていたり、Atiyah-Singerの指数定理に用いられていたりします。楕円型線形偏微分作用素の性質として次が成り立ちます。
定理2(Sobolev空間の正則性)
をコンパクト級多様体とする。 を階の係数がな楕円型線形偏微分作用素とする。 、でを満たしているとする。このとき、。
この定理は楕円型評価と呼ばれる不等式評価と軟化子を用いると示せます。楕円型評価を得るための一つの方法として、L. Hörmanderたちが構築した擬微分作用素論があります。そこでも、解析の不等式評価を息を吸うように使い倒します。さて、Sobolev空間の正則性から次が従います。
定理3(Schwartz超函数の正則性)
を級多様体とする。 を階の係数がな楕円型線形偏微分作用素とする。、でを満たすとする。このとき、。
ほかにも特徴的な定理としてSchwartzの核定理や完備性や極限操作に強いという性質があります。極限操作と相性が良いことは第1回でみることができるのでリンクを張っておきます。
では、佐藤超函数ではどういう性質があるのかを次の節で見てみたいと思います。
§2 佐藤超函数
佐藤超函数は層による議論が主になってきます。層というのは函数の空間みたいなもので、函数どうしを張り合わせて、大域的に函数を定義することができるものです。例えば、を満たすの開被覆としてします。各 で級函数が定まって、が成り立つとします。このとき、に対しと定めると、は全体で定める級函数になります。なので、は層です。逆に層でない例は可積分空間というものがあります。という函数は有界閉集合上で可積分ですが全体では可積分ではありません。層になるほかの例として、Schwartz超函数の層や佐藤超函数の層があります。
佐藤超函数にあって、Schwartz超函数にはない性質を挙げます。佐藤超函数には脆弱性と呼ばれる性質があります。つまり、開集合、がを満たしているとします。このとき、任意のに対して、となるが存在します。この性質はSchwartz超函数の層には無い、佐藤超函数の特徴的な性質です。
このことから次がわかります。という函数を考えてみましょう。はSchwartz超函数には属しません。原点で発散の度合いが大きいためです。しかし、は佐藤超函数に属します。この函数は常微分方程式の解になっています。この上微分方程式は最大の階でが係っていて原点でになります。なので学部生で習う版の常微分方程式の基本定理は使うことができません。しかし、佐藤超函数は次の性質を持っています。
定理4(小松の指数定理)
開区間とする。常微分作用素し、各係数は解析関数し、とする。このとき、
となる。ただし、をのにおける点の位数とする。
このように、常微分方程式の解を精密にとらえることができます。また、この定理は任意のにおいてという性質を持つ場合は常微分方程式の基本定理になります。この場合、常微分作用素は楕円型になります。つまり、すべての解が実解析になります。
今度は高次元の場合の性質を挙げます。佐藤超函数にも楕円型偏微分作用素の正則性を持っています。
定理5(佐藤超函数の正則性)
を実解析的多様体とする。 を階の係数が実解析的な楕円型線形偏微分作用素とする。を上実解析的な函数とし、をを満たすとする。このとき、は実解析的な函数である。
参考文献(abc順)
[1] Peter B. Gilkey, "Invariance theory, the heat equation, and the Atiyah-Singer index theorem," Publish or Perish Inc., USA, 1984年.
http://pages.uoregon.edu/gilkey/dirPDF/InvarianceTheory1Ed.pdf
[2] 垣田高夫, シュワルツ超関数入門, 日本評論社, 1985 年.
[3] 柏原 正樹, 河合 隆裕, 木村 達雄, ”代数解析学の基礎,” 紀伊国屋書店, 1980年.
[4] 小松 彦三郎, 数理解析研究所講究禄 188巻 "超函数の理論," 1973年,1973年.
Kyoto University Research Information Repository: 佐藤超函数論入門 (佐藤超函数論入門)
[5] 今野 宏, 大学数学の世界① "微分幾何学," 東京大学出版会, 2013年.
[6] 森本 光生, ”復刊 佐藤超函数入門,” 共立出版, 2000年.
次回は4/2-4/9を目途に更新したいと思います。