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連続函数と正則函数 ~存在域の視点から~

今回は次の問いを考えてみましょう。 

問題1.
 U \mathbb{C}^nの開集合とする。このとき、 Uより外に連続に拡張できない連続函数は存在するか。また、 Uより外に正則に拡張できない正則函数は存在するか。

前提知識: 複素解析(Cauchyの積分公式)

一応、前提知識はなくても読めるに配慮しました

 

§1 連続函数の場合

 考えている領域より外に拡張できなくなれば良いので、例えば境界に行くと発散している函数を作ればよいということになります。例えば、 d をEuclidの距離函数とします。 f(x) =\frac{1}{d (x, U^{C})}が求める函数になります。なので、任意の開集合でそれより外に連続に拡張することができない連続函数があるということになります。

 それでは正則函数の場合はどうでしょう。次の章を見ていきましょう。

 

§2 一変数の正則函数の場合

 境界で正則に拡張できない函数を作れるかどうかを考えてみます。まずは一変数の場合についてです。一変数の場合は次の定理があります。

定理2.(Weierstrassの定理)
 U \mathbb{C}の開集合とする。点列\{a_k \} \subset U  Uで発散する、もしくは無限遠点にいく離散点列とする。ただし、点列の個数は問わない。このとき、点列\{a_k \}の上では0 であり、それ以外の上では0でない正則函数fが存在する。

この定理を理解するために例を見てみましょう。 多項式代数学の基本定理がありますので、一次函数に分解することができます。また、  \sin x \cos xは次の因数分解を持ちました。

 \displaystyle \sin x = \pi x \prod_{n=1}^{\infty} (1 - \frac{x^2}{n^2})

 \displaystyle \cos x = \prod_{n=1}^{\infty} (1 - \frac{4 x^2}{(2n-1)^2})

 \sin xの場合は a_k= \begin{cases}\frac{k-1}{2} \,\,\,\, (k : odd) \\ -\frac{k}{2}\,\,\,\, (k : even)\end{cases} \cos xの場合は a_k= \begin{cases}\frac{k}{2} \,\,\,\,\,\,\,\,\,\,\, (k : odd) \\ -\frac{k-1}{2}\, (k : even)\end{cases}がWeierstrassの定理に当たります。この事実を一般化したものがWeierstrassの定理に当たります。

 Weiestrassの定理を用いて一変数の場合は Uより外に正則に拡張できない正則函数は存在することを証明しましょう。点列\{a_k \} \subset U  \partial Uの任意の点について収束する部分列を持つとします*1。 Weierstrassの定理から点列 \{ a_k \}では 0となる正則函数 fが存在します。 fが求めるものになります。そのことを示します。仮に、 a \in \partial U の近くで解析接続できたとします。すると点列 \{ a_k \}の中から aに収束する部分列が取れます。 この部分列の上では f0になります。一致の定理からfは恒等的に0となります。fはとってきた性質に矛盾します。従って、fが求めるものになります。

 一変数の場合も肯定的に解決しました。しかし、連続函数の場合とは異なり大掛かりな定理が必要でした。では多変数の場合はどうでしょう。次の章にいってみましょう。

 

§3 多変数の正則函数の場合

 連続函数の場合も、一変数の正則函数の場合も肯定的に解決されました。おそらく、はじめてこの内容に触れた方で、多変数の場合も肯定的に解決されるのだろうと期待する方もいらっしゃると思います。しかし、1906年にF. Hartogsにより反例が与えられました。そのことについて触れていきます。

 まず、Cauchyの積分公式について復習しましょう。

定理3.(Cauchyの積分公式)
 U \mathbb{C}の単連結な領域、つまり穴の開いていない領域とする。 \gamma  Uの閉曲線とします。 z \gammaの内部の点とします。このとき、任意の U 上の正則函数に対し次が成り立つ。

 \displaystyle f (z) = \frac{1}{2 \pi i} \int_{\gamma} \frac{f (\zeta )}{\zeta -z} d \zeta

 それでは、Hartogsが示した反例について話しましょう。領域を \Delta \Omegaを、 \Delta =\{(z_1 , z_2) | |z_1| < 1 \text {and } |z_2| < 1 \} \Omega =\{(z_1 , z_2) \in \Delta | 1 - \varepsilon < |z_1|<1 \text{ or } | z_2 | < \varepsilon \}  \subset \Delta

とします。 \Omegaは下に示す緑色の領域です。

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 \Omega上の正則函数fを任意に取ります。 r 1- \varepsilon < r < 1 満たすように取ります。 f_rを次で定義します。

 \displaystyle f_r(z_1 , z_2 ) = \frac{1}{2 \pi i} \int_{| \zeta_1 |= r}\frac{f( \zeta_1 , z_2)}{\zeta_1 -z_1} d\zeta_1

この函数 \Delta_r := \{ (z_1 , z_2) | |z_1 | < r \text{ and } |z_2 | < 1 \}上の正則函数です。 \tilde{f} \tilde{f}|_{\Delta_r} =f_rとなるように定義します。Cauchyの積分公式と一致の定理から \tilde{f}はwell-definedです。また、 \tilde{f}|_{\Omega} = fであることもわかります。こうして、 \Omega上の正則函数 \Deltaまで正則に伸びてしまいます。

 

§4 そのあとの発展

 多変数の場合は否定的に解決しました。Hartogsの反例は1906年当時、衝撃を与えました。このようなこともあり、多変数複素解析は難しいです。例えば、Weierstrassの定理の高次元化版について議論するのでも難しいです。一変数のときは都合のよい函数を近似していました。しかし、高次元ではこの議論はHartogsの反例があるのでそう簡単に議論できるものではありませんでした。1930年代後半から岡やH. Cartanにより、cohomologyと連接層を導入することにより研究が進みました。今では、L. Hörmanderをはじめとする偏微分方程式である \bar{\partial}方程式を調べることにより多変数複素解析の研究が進んでいます。

 

参考文献(ABC順)

[1]J. -P. Demailly, "L^2 estimates for the  \bar{\partial}-operator on complex manifolds," 2009.

https://www-fourier.ujf-grenoble.fr/~demailly/manuscripts/estimations_l2.pdf

[2]野口 潤次郎, ”多変数解析函数論 学部生へ送る岡の連接定理,” 朝倉書店, 2013.

 

次回は5/1を目途に書きたいと思います。

 

*1:このような点列が存在することはExerciseとします。