Schwartz超函数 ~理論の構築~
超函数(超関数)はDiracの 函数を用いて偏微分方程式の解を得る原理を正当化するために作られました。Diracの 函数を用いると、偏微分方程式の解を容易に求めることができます。しかし、Diracの 函数は"函数"として存在しません。今回はそんな超函数のことについてお話します。
前提知識:微積分
20世紀に入り、物理学者Paul Diracは偏微分方程式を解くための道具として、
であり、更に任意の滑らかな函数に対して
となるような"函数もどき"を導入しました。これをDiracの 函数といいます。この"函数もどき"を導入することにより、具体的に与えられた偏微分方程式の解を求めることができます。ここでは電磁気学でお馴染のPoisson方程式を通して考えてみましょう。Poisson方程式とは次で与えられる方程式です。
電磁気学ではは電位、は電化密度に当たります。このとき、この方程式の解が函数を用いて、
と書けていたとします。すると、
となります。このことから、
となり、このようなを求めることになります。簡単のため、の形でかけていたとしましょう。上の式は
となります。[tex: \Delta ]、は球面の回転について不変、つまり、原点からの距離を保つ変換に関して不変な微分作用素、函数です。従って、も原点からの距離を保つ変換に関して不変であると推測します。なので
とすると、原点以外では
となります。このことから、 定数を用いて
と書けると予測できます。しかし、この形では原点で微分できないので滑らかな函数で近似します。とします。はとするととなります。
です。ここで、
と変数変換すると、
このことから、滑らかな函数とすると
とすると、はとなります。一方、上の式の右辺はとなります。よって、つまりとなります。これでPoisson方程式は解けました。
しかし、この議論には次のような問題があります。
では、それぞれの問題を次の節で見ていきましょう。
しかし函数は函数でないです。このことを背理法で示します。仮に函数は函数であるとします。すると、函数の性質から
となります。は全体でを返す滑らかな函数であることに注意します。ところが、函数はのところではであるので
となります。わからない人は積分は軸と函数で挟まれた面積だと思って頂ければ結構です。よって矛盾です。この議論によって函数が本当に函数でないことが明らかになりました。
そこで§1での議論を正しくするためには、函数の性質を持ち、函数を包含する空間を導入する必要があります。正当化する方法として、L. Schwartzが導入した超函数(Distribution)、佐藤幹夫が導入した佐藤超函数(Sato Hyperfunction)等があります。今回はL. Schwartzが導入した超函数(Distribution)の方法で§1の議論を正当化していきます。
§3 Schwartzによる議論の正当化。
では§1で行った議論が正しくなるように、超函数の空間はどうであるべきかを考えてみましょう。
まず、§1の1.も問題を解決します。Schwartzのアイデアは普通の函数や函数を「函数の函数」としてとらえるというものです。例えば、函数は滑らかな函数をに移す線形写像としてとらえます。ほかに、函数はをに移す線形写像としてとらえます。これによって、函数と函数空間を含む空間を考えることができます。
すると新たに問題が生じます。超函数の上で微分方程式の議論を展開したいので、微分の概念を入れる必要があります。これはを函数、を(台がコンパクトな、遠方では0となる)函数とすると
をヒントに入れることができます。つまりに対して、とします。また、 とします。超函数上の微分を
と定めると良いことがわかります。
次に、§1の2.の問題を解決しましょう。でがに収束するとき、はに収束するか?という問題です。函数空間だと一般に正しくないです。
超函数の空間では正しくなるように極限を定義します。超函数列がに収束するとは、任意の台がコンパクトで滑らかな函数に対し、がに収束するとします。この極限の定義によって、がに収束するとすると、がに超函数の意味で収束します。なぜならば、
であることから従います。よって、2.の問題は解決しました。
以上により、§1の議論を正当化できたことになります。
参考文献(ABC順)
- So-Chi Chen, Mei-Chi Shaw, "Partial Differential Equations in Several Complex Variables, American Mathematical Society, 2001年.
- 藤田 宏, "解析入門V", 岩波書店, 1981年.
- 垣田 高夫, "シュワルツ超関数入門", 日本評論社, 1985年.
- Elias. M. Stein, "Harmonic Analysis: Real-Variavle Methods, Orthogonality, and Oscillatory Integrals", Princeton Univarsity Press,1993年.