Riemann積分のすっごーいところとLebesgue積分のすっごーいところ
面積を求めたり、函数を調べたり、不変量を求めたりと、いろいろなところで活躍している積分。ところで積分といえば、Lebesgue積分やRiemann積分があります。今回はLebesgue積分、Riemann積分のそれぞれの優れているところを取り上げます。
今回はLebesgue積分を学んだことありましたら、より楽しめるのではないかと思われます。
(わからない部分は流し読みすることをお勧めします。)
§1 Lebesgue積分は極限との相性が良い。
積分論の歴史を振り返ります。積分論が発展した理由の一つとして、B. Riemannが初めて厳密に積分を定義することができました。これにより微分積分学の基本定理など様々な積分の命題が証明されたが、この積分方法では極限との相性が悪いです。この問題の解決の糸口を開いたのがA. Lebesgueでした。特に、単調収束定理、Lebesgueの優収束定理によって、積分と極限の相性がとても良いものになりました。
さて、Lebesgue積分が極限と相性の良いことを見ていきましょう。簡単のため、 ]閉区間(ただし、は実数もしくは、 )で考えます。Lebesgueの単調収束定理とは次に述べる定理です。
定理1. はLebesgue積分可能な函数列で次の条件を満たしているとしています。
1.
すると、ほとんどいたるところではに収束する。
このとき、
が成立する。
『ほとんどいたるところ』がわからなければ、各点と思って読めばよいでしょう。また、Lebesgue積分は高校でやっている積分と計算結果は変わりませんLebesgue積分可能がわからなければ、そういう函数の集合があると思えばよいでしょう。
では、この命題を狭義(resp.広義)Riemann積分の範疇に変えると次のような定理になります。
定理2. は狭義(resp.広義)Riemann積分可能な函数列で次の条件を満たしているとしています。
1.
すると、ほとんどいたるところではに収束する。さらに、
2. は狭義(resp. 広義)Riemann積分可能である。
このとき、
が成立する。
Lebesgue積分より条件が多いです。問題なのは2.です。Lebesgue積分では、収束先であるはLebesgue可積分になります。しかし、Riemann積分だと、は必ずしもRiemann可積分になるとは限りません。なので、余分な条件が必要になります。
ではLebesgue積分の場合の使いやすさを実感しましょう。具体的に、ゼータ函数と熱核の関係式について見てみましょう。
であるから、
となります。最後の式変形についてです。Lebesgueの場合、はが増えるにつれて単調増加するので、そのまま単調収束定理を用いることにより最後の式変形が従います。一方、Riemann積分の場合、がRiemann積分可能かいちいち確認しなくてはいけません。Lebesgueのほうが議論が楽であることが実感できるでしょう。
Lebesgue積分のある種の完備性、つまり極限との相性がよいので、複素解析や函数解析など、解析のあらゆるところに貢献しています。こうみると、Riemann積分は劣った積分に見えます。ではRiemann積分ではできて、Lebesgue積分できないことはあるのでしょうか?次の節で見ていきましょう。
§2 Riemann積分はWeylの一様分布定理と相性が良い。
Riemann積分の良さを話す前に、Weylの一様分布定理について述べておきましょう。次の問題を考えます。
問題3. を無理数とする。とする。つまり、はの小数部分である。このとき、は ]で稠密か。
この問題3を解決するために、これより強い問題を解きます。
定義4. ] に属する数列が一様分布列であるとは任意の ]区間に含まれる区間]に対して
が成り立つことをいう。
問題5. 数列は一様分布列か?
問題5は問題3より強い主張です。問題5の答えは次の通りになります。
定理6. 数列は一様分布列である。
この定理はWeylの一様分布定理と呼ばれています。証明の概略を述べておきしょう。を函数とします。次の条件を考えます。
上の条件を条件Aと呼ぶことにします。
Step1. を任意の整数としては条件Aを満たす。
これはそのまま代入して級数の収束について考えます。
Step2. 函数、が条件Aを満たすとき、も条件Aを満たす。
Step3. Weiesrtrass三角函数近似定理*1により、が連続函数なら条件Aを満たす。
Step4. は条件Aを満たす。つまり、Weylの一様分布定理が成り立つ。
これはが上からも下からも連続函数で抑えることができることから従います。詳しくは参考文献「2.」をご覧ください。
さて、条件Aはどのような函数だったら成り立つのでしょうか。実は次の主張が成り立ちます。
命題7. がRiemann積分可能なとき、条件Aは成立する。
証明の概略についてです。がRiemann積分可能なので、てきとうな区間を考えて単函数で上からと下からで抑えることができます。単函数というのはStep4.で挙げた函数の線形和であらわしたものです。このことから従います。
ではLebesgue積分可能な函数ならどうでしょう。これは反例があります。
反例8. とする。
このとき は条件Aを満たさない。
実はこの函数はLebesgue積分可能だが、Riemann積分不可能である函数です。よって、条件AはRiemann積分可能では成り立つがLebesgue積分可能では成り立つとは限らないことになります。
ここで話は終わりません。数学の恒例行事である、逆を考えてみましょう。つまり、条件Aが成り立つならRiemann積分可能かを考えてみます。これは反例があります。
反例9. は条件Aを満たす。
条件Aでは緩いことがわかります。となってしまいます。が原因でしょう。この反省を踏まえるとRiemann積分可能と同値な命題を得ることができます。
命題10. を有界でLebesgue可測な函数(つまりLebesgue積分可能)とする。このとき、次の主張は同値である。
- がRiemann積分可能
- 任意の一様分布列に対して次が成り立つ。
参考文献(ABC順)
- 小平 邦彦, "解析入門II," 岩波書店, 1976年.(復刊版: 小平邦彦, "軽装版 解析入門<1>," 岩波書店, 2003年.)]
- Elias M. Stein, Rami Shakarchi 著, 新井 仁之, 杉本 充, 高木 啓行, 千原 浩之 訳, "プリンストン解析学講義, フーリエ解析入門," 日本評論社, 2007年.
今回の題材は主に「2.」です。Weylの一様分布定理の章を題材に今回の話を組み立てています。また、「1.」にArzelàの定理と呼ばれる、Lebesgueの優収束定理の元となった定理が掲載されています。Lebesgueの優収束定理はArzelàの定理に比べて条件が緩くなっていることがわかります。
次回は3/19までに作りたいと思います。